この価格帯まで来ると完全に手造りで、ひとつの型からひとつの鉄瓶しか作りません。鉄瓶の蓋のつまみなど細かい造形を必要とする部分も、型から取り出す時に型が壊れて次の鉄瓶が作れなくなってしまう心配をしないで済みますから、かなり緻密なデザインが可能になってきます。
もちろん表面の漆焼き付けや内面の湯あか醸成は言わずもがな、取っ手には中を空洞にするように一枚の鉄の板を手作業で丸めて作られる袋鉉(ふくろつる)が使われますので、ある意味で本物の鉄瓶の醍醐味とも言える、お湯が沸いたばかりの状態でも素手で持ち上げることが可能となります。
そして、さらに何十万もするような本当の高級品になると、鉄の素材が異なったり(砂鉄を使用)、あの鉄瓶の代表的な文様である“アラレ”のつぶつぶ自体が全て手押しになったりすることで精巧を極め、非常に繊細な表情を持つようになりますが、同時にその製作にかける作業量は膨大なもの。
その製作過程を知らないと、なぜこれほどの価格が付けられるのか不思議に思われそうですが、実はそれだけ手間隙をかけた分の価値が反映されているのです。ですから、その価値を知りたい方はこういった鉄瓶を是非一度手にとってみてください。職人の鉄瓶にかける想いが伝わってくるのを感じることができるはずです。